2026/02/15
鍼灸翠風院の院長橋本伸浩です。私自身過敏性腸症候群(IBS)に過去(高校生)に経験し、鍼灸と養生により改善したこともあり、現代医学では良くならない人も東洋医学をもってすれば対処できる方も多くいると考えています。当院にはIBSで悩んでこられている方が複数来られていて、薬を飲んだがよくならなかった方や薬を飲みたくない方、またそれぞれ異なる症状や訴えがあります。
改めてしっかりと学ぼうと思い、IBSに対する西洋医学的見解(日本消化器病学会 編『機能性消化管疾患診療ガイドライン2020―過敏性腸症候群(IBS)』を中心に)と東洋医学的見解を学び、私が思ったこと(思いっきり個人的な見解ですので間違っていたらご連絡くださいm(__)m)を解説します。
専門的な内容を出来るだけ簡易に解説していますが、どちらかというと鍼灸師や医療関係者向けになります。良ければご覧ください。
1. IBSになる原因 ストレスとお腹の関係:脳腸相関について
【西洋医学(ガイドライン)の視点】
IBSの病態において、ストレスは極めて重要な要因になっています。脳が感じたストレスが自律神経やホルモンを介して腸に伝わり、腸の過敏性や運動異常を引き起こす「脳腸相関(のうちょうそうかん)」が深く関与しているとされています。またIBSの方は人が生きる上で起こりうる事件を、健常者と比較して悪く解釈する傾向があることが指摘されています。
【東洋医学(北辰会方式)の見方】
東洋医学では、ストレスは「肝(かん)」という気の流れを司る臓腑を乱します。これを「肝気鬱結(かんきうっけつ)」と呼び、全身の気の巡りが悪くなり、イライラ・憂うつ・胸脇部の張った痛み・ため息が出るなどの症状が当てはまります。「肝気鬱結(かんきうっけつ)」により、消化器系の「脾胃(ひい)」も気が巡らなくなり機能低下してしまう状態(肝脾不和:かんぴふわ)が、IBSに多く見られる傾向があります。
2. IBSに食事指導・食事療法は有用か?
ガイドラインでは、食事療法は有用とされています。
特に以下のものを控えることが有用と指摘されています
- 脂質の多い食事
- カフェイン
- 香辛料
- 乳製品
- 発酵性糖質(FODMAP)
また、
- 規則正しい食事
- 欠食を避ける
- 個別に誘発食品を把握する
ことが重要とされています。
【東洋医学(北辰会方式)の見方】
東洋医学では食事は「脾胃」を傷める要因として重視します。
- 冷飲食 → 脾陽虚
- 甘味過多 → 湿困脾
- 脂が多い食事 → 痰湿停滞
のタイプのIBSを悪化させやすいです。
IBSのタイプ別に、
- ● 冷え型 → 温補中心(冷たいものを摂らず温かいものを摂る)
- ● 緊張型 → 疏肝理気(食事指導よりも運動を中心に行います)
- ● 軟便型 → 健脾固摂(山芋や黒豆を摂る)
と分けて指導します。
3. IBSにプロバイオティクスは有用か?
ガイドラインでは、プロバイオティクス(乳酸菌・ビフィズス菌などの菌類)は有効で推奨度が高いとされています。
複数のメタ解析で、
- 全体症状の改善
- 腹痛の軽減
- 膨満感の軽減
が確認されています。
ただし実験では複数のプロバイオティクスの組み合わせで行っているため、実際に自分に合うタイプの腸内細菌が入っているドリンクやヨーグルトを試して探し、摂ることをお勧めします。
4. IBSに漢方薬は有用か?
ガイドラインでは、漢方薬は治療選択肢として有用とされています。
代表的には:
- 桂枝加芍薬湯(下痢型の腹痛に対して有意な差(効果)が見られた。)
- 半夏瀉心湯(下痢型のIBSに対して6例中著明改善2例、改善3例、軽度改善1例)
- 大建中湯(便秘型IBSに対して、腹部膨満感、放屁、腹鳴、残便感に有意な差(効果)が見られた)
【東洋医学の見方】
- ● 桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)
効能:和脾止痛
脾虚に乗じて肝気が横逆して腹痛・腹満が生じているものに対して服用。
→ 脾虚(消化器が弱い、朝が怠い、食欲があまりない、お腹を下しやすい)タイプの人がストレスがかかり、お腹を下すタイプIBSに用いる - ● 半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)
効能:開結除痞・調和脾胃・寒熱併調
病因病機:上熱下寒とともに、胃熱脾寒による昇降失調し心下が痞(つか)える。胃気不降となり濁陰が上逆すると悪心・乾嘔・嘔吐など生じ、脾寒や脾湿で清気不昇になり、下泄すると腹鳴・下痢が発生する。湿熱による場合は舌が黄じ苔になる。
上部の熱を取りつつ、下の冷えを取り、心下痞結を開散する方意(+脾胃の湿熱も解消) - ● 大建中湯(だいけんちゅうとう)
効能:温中補虚・降逆止痛
病因病機:陽気が不足することで陰気が盛り、陰寒の邪が気血を凝滞させて激しい腹痛が生じ、陰濁が上逆して嘔吐する。中焦の陽気不足から生じる腹痛に対して用いる。
上の3つの漢方薬はそれぞれことなった証で、下痢型IBS=桂枝加芍薬湯証になるとは考えにくい。下痢型は臭いが感じにくい場合は脾陽虚で桂枝加芍薬湯が、臭いがきつい場合は脾虚胃湿熱で半夏瀉心湯がよいように考えられる。
また桂枝加芍薬湯は名の通りシャクヤクが入っていて、柔肝止痛の働きも重要と見えます。半夏瀉心湯に入っている半夏は湿を乾かし、気を降ろし、心窩部の痞えを開く働きがあります。気逆が強く、肝よりも心に影響があるような方はこちらがよいかもしれません。
5. IBSに抗アレルギー薬は有用か?
IBSの原因のひとつに食物アレルギーがあげられていて研究では、
- 肥満細胞
- ヒスタミン放出
- 粘膜炎症
がIBS症状と関連することが示されています。
研究では皮膚プリックテスト陽性反応があったIBS患者さんに、一カ月間アレルギー除去食を取った群と抗アレルギー薬の群にわけ、どちらも有意に改善しました。よってガイドラインでは有効性が示唆されています。
アレルギーを東洋医学で考えるのは諸説ありますが、
- 湿熱
- 食積
- 痰熱
が関与すると考えられています。
6. IBSに鍼灸(補完代替医療)は有用か?
ガイドラインでは補完代替医療(CAM)として:
- 鍼治療
- 灸治療
- 心理療法(瞑想・催眠・ヨガ等)
- 一部の代替療法(ハーブ療法 実験ではペパーミントオイルの腸溶性カプセル)
が検討対象になっています。
鍼灸については、
- 鍼治療と灸治療それぞれで症状改善を示す複数のRCT、2つのメタアナリシスあり
- ただし研究の質にばらつき
- 標準治療というより、補助的位置づけ
と示されています。
■ 鍼灸の主要研究
● Pei L et al., 2020(RCT)
鍼治療群は偽鍼群よりIBS症状スコアが有意改善
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32499125/
● Manheimer E et al., Cochrane Review
鍼は症状改善の可能性ありと評価
https://www.cochrane.org/ja/evidence/CD005111…
● MacPherson H et al.
実臨床条件での鍼治療が有効
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23095376/
【東洋医学的視点によるIBS鍼灸施術】
上記研究では、実験の性質上、弁証分類等を行わず、IBSの方に同じ施術を用いて有意な差(効果)が見られました。
北辰会方式では、IBSもそれぞれ証が異なる場合があるため、最大限鍼の働きを出すために以下を取り入れています。
- 病名ではなく証で治療(問診→ツボや脈・舌など全身の状態を診る(体表観察))
- 腹証・脈証・体表観察重視
- 少数穴による的確刺激で鍼の働きを最大化
- 五臓六腑の気を動かすことで自律神経調整も行う
IBSを弁証分類すると:
これらの単独もしくは複合的に組み合わさって、症状が引き起こされます。
治療は大きく、冷えが関係する場合は温補の鍼灸、熱が関係する場合は清熱の鍼
気滞(主に肝)が関係する場合は理気や疎肝の鍼、脾や腎の弱りが関係する場合は対応する臓腑を補う鍼やお灸を行います。
7. IBSに運動療法は有用か?
IBS(過敏性腸症候群)は、食事やストレスだけでなく、生活習慣、とくに運動習慣が症状に大きく関係することが分かってきています。
実際に、IBS患者さんを対象にしたランダム化比較試験では、専門家の指導のもとで適度な運動を行ったグループは、行わなかったグループと比べて症状スコアが有意に改善しました。症状の改善率は約25〜30%と報告されています。
さらに、長期追跡でも改善効果が持続しており、運動は一時的ではなく、継続することで体質改善につながる可能性が示されています。
■ 運動で改善が期待できる症状
- 腹部症状(下痢・腹部不快感・腹満)
- 胃の不快感・げっぷ・胸やけ
- 倦怠感
- 自律神経症状
など、IBSに伴いやすい全身症状も含まれます。
■ どんな運動がよいか?
重要なのは「激しい運動」ではなく、適度な有酸素運動です。
おすすめは:
- ウォーキング
- 軽いジョギング
- ヨガ
- 軽めの体操・ストレッチ
目安は
週3〜5回・20〜30分・少し息が弾む程度。
無理に強度を上げるとかえって悪化することがあるため、「気持ちよく続けられる強さ」がポイントです。
🧪 Johannesson E, Simrén M, Strid H, et al. 2011
Physical activity improves symptoms in irritable bowel syndrome: a randomized controlled trial
✅ ランダム化比較試験で、運動療法群は偽群よりIBS症状スコアが有意に改善したと報告。
📌 PubMed: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21206488/
まとめ:IBSは「腸だけの病気」ではなく、全身と心身のバランスの問題
IBS(過敏性腸症候群)は、単なる腸の不調ではなく、
- ストレスと腸の関係(脳腸相関)
- 自律神経の乱れ
- 食事内容
- 腸内環境
- アレルギー反応
- 生活習慣(睡眠・運動)
- 体質(東洋医学的証)
などが複合して起こる病態です。
西洋医学のガイドラインでも、
- 食事療法
- プロバイオティクス
- 漢方薬
- 抗アレルギー薬
- 鍼灸などの補完代替医療
- 運動療法
といった多角的なアプローチの有用性が検討されています。
東洋医学の視点では、IBSは一つの型ではなく、肝気鬱結、肝脾不和、脾虚、湿熱、寒湿、陽虚など、証によって治療方針が変わるのが特徴です。
そのため当院では、病名だけでなく、腹診、脈診、体表観察、問診を重視し、少数穴による的確な鍼灸刺激で、気機と自律神経の調整を行っています。
私自身も高校生の頃にIBSを経験し、鍼灸と養生によって改善しました。その経験からも、薬で改善しなかった方や、薬に頼り続けたくない方でも、体の整え方次第で変化が出るケースは少なくありません。
IBSでお悩みの方は、食事、運動、生活リズム、鍼灸による体質調整を組み合わせて、段階的に整えていくことが大切です。
つらい症状も、身体の反応として意味があります。
一緒に体質から見直していきましょう。
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